第158回 『 人が学習する時 』
- 2004/10/05(火) 15:00:00
・国立天文台の調査によると、小学生4年〜6年の40%の生徒が太陽が地球の周りを回っていると考え、また27%の生徒が太陽の沈む方向を間違えて認識しているなど、基本的な天文知識を欠いているという報道があった。報道された内容はともかく、人々は40%という数字の大きさにショックを受けた。地球が太陽の周りを回っていることは、大正、昭和の時代には生徒の大半が既に常識として知っていた、…はずだ。
【 平成の小学生の天動説 】
・地球が太陽の周りを回っている、16世紀のヨーロッパでコペルニクスが初めて唱え、これにより彼は教会に厳しく弾圧された。日本ではこの頃、織田信長が戦場を駆ける戦国期にあった。コペルニクスの地動説はガリレオ・ガリレイやアイザック・ニュートンの支援を受け17世紀後半には完全に正しいと証明され、ヨーロッパ社会に受け入れられた。日本は江戸時代の鎖国から目覚め19世紀後半の明治時代に急速に西洋文明を吸収し大正、昭和の時代には地動説は日本人の小学生の天文の常識となった、…はず。従って60年後、にわかに起こった21世紀の平成の小学生の天動説 に人々は途惑った。
・一部の世論にこれをゆとり教育の欠陥と指摘する向きもあるが、原因を現代の学校にあるとして断罪するのは性急にすぎよう。まず大正昭和の小学生の大半が常識としてこの知識を持っていたかに疑問が残る。たとえば天文台は当時そんな調査はやってないだろう。その頃の小学生だった私の記憶では、当時の小学生は誰でも常識としていたように思う。しかし中学に入って教えられたのではと改めて質問されると、ほとんど記憶はない。
【 生きる為の基礎知識 】
・ただし、あの当時あの知識は親が教えたのではないかという気がする。日本の産業は士農工商があり、子は原則として家業を継ぎ、親は子の生きる技術の教育者であった。太陽や月、雨や風、四季の移ろいの自然現象は農耕民族の日本人の生きるための基礎知識である。こういう知識は親が子へ、祖父母や両親により幼い頃からくり返し教えられてきた。
・平成の小学生の天動説は、私はむしろ、現代の親と子の教育関係の稀薄化を象徴しているように思う。親はもう我が子を教育しなくなった。大家族は核家族となり、テレビが普及し、子は個室にこもり、少子化した。また母は職業を持ち、父親は帰宅が遅く、人は農業を離れ都市の給与生活者になった。
・士農工商という四つの職業は、それぞれが子弟教育の独得のシステムを持つ。たとえば士の教育の基本は嫌疑を受けないこと、弁解しないこと、責任を取ること、いつでも切腹ができることであった。農は食住や生活用具は自家生産であり、田畑の開墾、寒暖の差の大きい四季の作業等、学習は多岐にわたる。工は技術の保持と技術の流失の阻止。商は家訓の整備と入婚制による長女相続などの工夫がある。
・このうち士の教育は明治期に消滅する。しかし農を中心とする文化の伝統教育が学校教育と共存したが、明治以降140年で親は子の教育を離れた。宗教や伝統的文化の稀薄な国で、それは危険なことかもしれない。
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