第202回 『 糖尿病への玄関口 』 3
- 2006/06/27(火) 15:00:00
・コミュニケーションがうまくいかないとしたら、それは通常、伝え手と受け手のいずれか、または双方の欠陥が原因で起こる。伝え手の欠陥とは例えば不親切、思いやりの欠如、表現力のなさなどがあり、受け手の原因は意識の低さ、注意力の散漫さなどで起こる。コミュニケーションをよくするには伝え手は親切さ、思いやり、表現力が大切であり、受け手は高い意識と注意力を身に付けねばならない事になる。
・しかし、人間ドックでの私の体験にはこの教えは当てはまっていない。20年来の担当医は親切で思いやりもあり、表現力も身につけている。一方の私はビールを水で薄めるほど意識は高く、注意力は日常のマネージメントで磨かれている。こういう2人が20年間続けてきた誤解は、一体何故起こったのか…。実に原因は担当医の親切さ、思いやりそのものにあった…、と私は思う。
【 伝え手の善意の気遣いはコミュニケーションを損なう 】
・現状が隠される原因は双方の欠点や悪意によっても起こるが、伝え手の善意や気遣いによっても起こることであり、むしろこの方が多いのではないか。担当医は私の健康の厳しさをはっきり伝えるには気が優し過ぎた。私にショックを与えたくなかったのであろう。彼は数値の高さを1つ1つ述べた。このままでは糖尿病になりますよ。数値を低くしましょうと言った。それには酒を控え、休肝日を作りなさい。彼にとって説明は十分であったが、私は医者でなく受診者であった。
・責任は私にもあった。受け手の質問能力に問題があった。20年間、なぜか私は的確な質問をしていなかった。その原因は、たいした事はないはずだという根拠のない思い込みと、医者の指導の軽視にあった。酒が好きでやめたくない思いが勝手解釈をエスカレートさせていたのだ。
【 率直な感想がコミュニケーションを作る 】
・伝え手が現状を正しく伝えるにはどうしたらよいか。それには、あの初めての医師の言葉に解答がある。「ほとんど糖尿病と言っていい。ただしヘモグロビンの量が多いのが救いです。」ここには善意の気遣いはない。率直な感想が述べられている。この率直な感想が、私の記憶に残り、コミュニケーションを作った。善意の気遣いがなぜコミュニケーションを損なうのであろうか。それは事実を受け入れやすいように着色するからであろう。着色した分、事実から離れていく…。
・次に受け手は現状を正しく知るにはどうすればいいか。それには的確な質問をすることだ。担当医に対し私は次の質問をした。「私は糖尿病の玄関にいるのでしょうか。」これは極めて具体的な質問であり具体的な答えを求めている。従って答えは具体的なものとなった。 「腰まで水に漬かっています。」
【 現状を正確に知らなければ打つ手を誤る 】
・具体的な質問でてっとり早いのは、現状の深刻さは100点満点で何点かと問う事である。ただし、日本人はこういう問いにまともな答えが返ってこない。「さあ、50点か60点ぐらい… 」 水増しして曖昧にする。そこで「100点満点で15点ぐらいですか」と聞けば60点のような無責任な答えをはじき、本音が出やすくなる。また上中下で、どこになりますかと聞くのも良い。下という答えが出たら、下のうちの上ですか下ですかと聞けば9段階の評価が自然につくであろう。
・私のマネージメントでは毎日こんな質問を繰り返している。問題点の現状は良いのか悪いのか。悪いとすればどれくらい悪いのか、正確に知らなければ打つ手を誤るからだ。その私が自らの健康については愚かな失敗を続けていた。(この項続く)
第201回 『 糖尿病への玄関口 』 2
- 2006/06/13(火) 15:00:00
・この春の私の人間ドッグは、3月初旬だった。この日初めて自分の健康がただならぬ事を知った。このまま進めば糖尿病を発症する危険がある。その危険度は腰まで水に漬かっていた…。原因は酒にあった。担当医は一つ一つ数値を示して酒を控えるよう常に指導してくれたが、私はこれに忠実でなかった。現状に対する正確な認識を欠くと、対策が正しくても人は実行しないし、実行できない。
【 大酒の害を教えてくれた 】
・私は20年間、担当医の指導を無視し続けたわけではない。十数年前、酒とビールに2倍の水を入れて飲んでいた。いくら好きでもこんなものを酔うまで飲めない。酒の味はしなかったが、酒量は半分になった。それが、気が付いたらいつの間にか元に戻っていた。なぜ元に戻ったか原因は分からなかったが、今、それが分かった。迂闊にも酒とビールをウィスキーと焼酎に変えたのだ。これにも水は入れるが、こちらなら気持ちよく酔える…。ともあれ金と時間をかけて20年間ドッグに通う男は、健康には人並みの関心は持っていた。
・胃がんの手術を受けた1年間は、さすがに胃が (?) 酒をうけつけなかった。私は1番小さな缶ビールを一本、一晩かけて大事に飲んだ。皮肉にもこの1年は、私の人生で最も体調のいい日々となった。大袈裟に言えば疲れを知らず、このことは大酒の害を教えてくれた。
【 解決を可能にした4つの条件 】
・酒は6杯という節酒策は5月の連休の頃浮かび、すぐに実行してきた。3月から2ヵ月もかかったが、長年の習慣を変えることに気が進まなかったのだろう。5月半ば、外で飲む日は7合飲んでいると知り、週3.5回の外出を1.5回に減らした。酒を減らすには イ.健康の現状を知る、ロ.飲酒の現状を知る、ハ.飲酒の害を知る、ニ.目標を具体的にする。以上4つの条件を充たして、私の節酒は前進できた。
・こうして私はこの問題を1ヵ月前に解決した。数値は下がっていないが節酒は対策通りに実行している。後は6ヵ月後の診断を楽しみにしている。実は、医師は休肝日を作るよう指導しているが、この案は私には過激すぎるので保留にした。積年の大問題をとりあえず解決できて、爽快な気分である。また、自分を変えることができると知り、それは小さくない自信となった。
【 素直な感想と具体的質問 】
・私はなぜ20年目に、自分の健康状態を正確に知り得たか。それは初めての医師のデータを見ての率直な感想にあったと思う。「これはほとんど糖尿病といっていい。」この言葉が、6ヵ月間私の脳に残っていた。しかし、これだけでは十分ではないと思う。この春、私は担当医に具体的な質問をしていた。「ほとんど糖尿病と言われましたが、私は糖尿病の玄関にいるのでしょうか。」具体的な質問には、具体的な答えが返ってきた。「中に入って腰まで水に漬かっています。」
・上の例は現状を正確に知ることの難しさを示している。私は健康に関心を持ち理解力も持っているはずだ。担当医は標準以上の説明ができる。20年間私は金と時間をかけてきた。2人は40回向かいあったが、コミュニケーションは成立せず互いに誤解していたのだ。
・ではコミュニケーションはなぜ成立しないか。原因は伝え手の説明力に問題がある。受け手の理解力、感受性に問題がある。あるいは、伝え手の不親切や多忙などもあるだろう。受け手の注意力にもある。しかし、医師と私にはこのような初歩的な欠陥はなかった。では現状が隠された原因は何であろうか。(この項続く)
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