第161回 『 人が学習する時 』 4
- 2004/11/16(火) 15:30:00
・若者は20才前後で社会に出る。この地で彼は数十年にわたる人生を設計し、施工を始める事になる。彼は設計図を何度も書き直し、工事はそのたびやり直す。孤独で根気のいる作業…。良い図面、良い人生を得られるか、結果については全てが自己責任である。彼が人生を切り拓いて行くのに必要な道具は知識であった。むろん、これだけでは闘う武器が不足している。では、何をもって第二の武器とするか。
【 社会に仲間入りする条件 】
・社会に出る、と人々は言う。では社会とは何か、ここに何があるのか。社会とは人々が集まり、集団で生活をする場である。そこは人、人、人で一杯だ。日本という地域には1億3千万人が住み、岡山県倉敷市には44万人が住む。各地域には職業を同じくする人が集まって、農村、漁村を形成し、商う人が集まって商店街をつくる。また経営者が会社組織をつくり、ここに数十人から数千の人々が働いている。
・社会に出た若者がこの集団に仲間入りする条件は何か。人が集団で生活をするにはさまざまな商品やサービスを必要としている。衣食住に始まり教育、音楽、スポーツ、旅行。電気製品にテレビに映画…。人は様々な物やサービスを求めており、求めに応じてそれらを作り運び売る人が現れる。彼はこの作業によって収入を得、この収入で今度は彼が好む物を注文する側に廻る。
・社会で人々は持ちつ持たれつの関係にある。社会に入る条件はこの一翼を荷う事、人の役に立つよう働く事だ。人は自分の為に働いていると言うが、そういう人は孤島に生きるロビンソン・クルーソーくらいだ。我々は本当は人の為に働いているのかもしれない。
【 人の心が分かる事 】
・先に述べたが社会は人の集まりそのものである。故に社会で成功するには、人についてよく知っている事、人の心が分かることだ。相手が何を考え、何を求め、何を期待し、何を嫌うのか分かること。人々の関心は今、どこに何に向かっているのか。人を相手にするビジネスで、これは最大の武器となる。お客の心が分かる人は良い営業マンに、上司の心が分かる人は上司の信頼を得るだろう。社会には小説家、プロ野球の監督、医師、設計者など極めて専門的な知識と技術を要する職種がある。しかし彼らが人について無知なままで、役に立つ仕事が出来るであろうか。
・人の心がわかる人の特長は、常に人に関心を持っていること。自分から積極的に話しかけ、人の話をよく聞くよう努めていることにあるようだ。あるいは常に自分の心の動きを見つめる事である。自分に対し嘘をやめ、正直であれば、人間について十分の知識が得られよう。人間に対する理解が深まれば、いつか容易に人を動かしている自分を発見しよう。それはまぎれもなく、第二の武器である。
・それは上級訓練コースで起こった。職場の問題点で訓練生の一人、若い女性のS主任のケースに私は目をとめた。ある日の反省会で部下の一人が今日、自分は遅刻してしまったという発言があり、Sがこれを咎めた。これを聞いていた院長先生がS主任を呼んで注意した。「あなたのさっきの注意はしつこく、しかも言葉に棘があって無用に相手を傷つける…。」S主任は部下を注意するリーダーの正当な行為が、否定されたと不満を述べていた。
・私はこのケースを読みあげ、ここにどんな問題があるかを訓練生にたずねた。このケースの解を簡単に言えば、S主任も院長もその行為は共に正しかった。ただし反省会という場で告白した部下に対し、S主任はその正直さをほめるべきだった。それから遅刻のないように励ます。また有効な助言をすべきだった。院長にも問題があった。部下を叱ることのできない管理者が多い中で、S主任はきちっと叱る事の出来る人であり、この点を賞賛したい。それから叱り方の注意をすれば、すべてが生きたに違いない。
・セミナーの途中から、何か異変が起こっている事に私は気がついた。S主任は顔が俯き、やがてすすり泣く声が洩れはじめた。思いも寄らぬ事であった。その夜、私はSは何故泣いたのだろうと考え、解を得た。翌朝、私は再びセミナーに出かけていって「Sさんはきのう何故泣いたのでしょう」と訓練生に聞いた。色々意見が出るうちに私はしまったと思った。Sの顔が再び俯いたのだ。しかし途中でやめるわけにはいかない。機を見て私は解を述べた。「Sさんは、自分をよく理解してくれる説明を聞くことが出来たから、泣いたのでしょう」…声はすでに洩れていた。私は慌てて教室を出た。
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