第141回 『 バブル崩壊と12年不況 』 13
- 2004/05/25(火) 17:50:00
・営業の改善は目標設定から始まった。目標設定はビデオ教材のテーマであった。当社の目標は、ビデオで教えている方式ですでに設定してあった。ただし、10の部門の設定はあったが、部門内の課や個人には目標は与えていなかった。ビデオの中の主人公達と同じように、当社でも管理者は手を抜いていた。
・私達は全社員の目標設定の徹底を図ったが、これが完全に行われるには二年の歳月を要した。徹底するためには何事も大変な努力を必要とする。そして徹底しなくては効果は出ない。当然、当社の業績は良くなかった。
【 その荷を誰に負わせるのか 】
・目標設定はすべてはトップダウンで行われる。まずトップの私が年間目標を決め、役員会の承認を得る。私はこれを10の部門に割り振る。次に10の部門長は部門の数値を課別、個人別に割り振る…。この過程で私以下のリーダーは部門や課や個人の意見は求めない。また事情は一切考慮しない。一つでも考慮すると公平が一つ失われ、五つ考慮にすると公平性は一挙に失われる為である。
・こうして作られる目標は極めて公平な数字となった。社員からは不平不満の声はほとんど聞かれなかった。自分には荷が重いので軽くして欲しいという要望はあったが、データを公表しているので、その荷を誰に背負わすのかときかれると黙るしかなかった。我ながら感心するくらい、社員はこの数字を信頼し受け入れてくれた。我々は正しく目標を設定する技術を手に入れた。ビデオの中だけでなく現実にも…。
【 管理者は成績不振の社員を温存したがる 】
・会社で私はいろいろな事にデータを揃えていった。売上という大づかみの数字でなく、多角的に数字をチェックすると、現状は新しい姿を見せてくれた。毎月業績を審査し、優良部門と不振部門を区別した。私の指導は不振部門に集中した。彼らはなぜ数字が悪いのか。
・原因は無数にあった。営業マンの数が不足していた。新人に問題があり、ベテランに問題があった。新規の売上が低かった。かといってユーザー売上が良いというのではない。営業活動の細部をチェックすると更に問題があった。それらはどこの会社にも見られる問題であった。
・この中で、私が注目したのは新人の育成期間であった。新人がひとかどの成績を上げられるのに4年から5年かかっていた。ひとかどの成績といっても、自分の給与をようやく稼ぐ程度であったが…。 5年はあまりに長すぎた。原因は、管理者が成績不振者の社員を温存する行為にあった。
・この理由は新人の業績の良し悪しの判断を逃げ、不振者への指導の欠陥を探りこれを修正する作業と、これに伴うトラブルを避けた。また、新人の問題には解雇がついてまわる。これら諸行為の判断決断力が不足した。やめさせることで人員が不足する恐怖と、良い社員が採用できるかという不安、採用のための出費を避けたいというつまらぬ配慮もあった。
・要するにすべてが優柔不断であった。問題を解決するのではなく、作り出していた。新人育成に対する方針と熱意と努力がなく、これらを模索することなく、中途半端な社員を作り出していた。従って中途半端な人たちは5年たってもダラダラ退社が続いた。それは不振部門だけでなく、どこの部門にも共通していた。会社も新人も、仕事の適性を知るのに貴重な歳月を無駄使いしていた。会社が負担する5年の経費もさることながら、新人の5年の歳月の浪費は申し訳ない事であった。
第140回 『 バブル崩壊と12年不況 』 12
- 2004/05/18(火) 15:20:00
・バブルの崩壊を書き始めて12週が過ぎたが、話はあちこち漂うばかりで一向に進まない。これでは終わらないと気はあせるが、疑問を残したり誤って認識されたくない。最低限の事はなるべく正確に説明しておきたいと考えております。
・先号にも説明不足が二ヵ所あった。7分間スピーチで訓練生はきわめて徹底した指導を受ける。一つのスピーチに十数回の審査を受け、彼らは合格を勝ち取る。こうして三つのスピーチは、すべて丁寧な指導と審査を受けている。
・スピーチ力を高めるために発声、素読、歌唱訓練が行われている。歌唱は感情を移入する訓練で、財部一朗の作詞、校長元橋康雄作曲 「セールス鴉」 が教材に使われている。川の源流を一本一本遡って元からやり直す。それだけでなく、このうち素読と歌唱は審査の対象である。その審査はスピーチ同様、手抜きしない。
【 これだけ徹底してやれば、13日かかる 】
・13日間コースを知らない方々は考える。「なるほど、三つのスピーチをこれだけ徹底してやれば、訓練は13日間は十分かかるだろうナ」ところがこれが誤解である。スピーチ研修は13日コースのメインの訓練である。メインだがこのコースの100%の訓練というわけではない。90%でも80%でもない。
・このコースの目的は、主要なもので四つある。
イ.管理者としてのあるべき姿を認識すること。ロ.ディスカッション研修により見識と主張の強化。ハ.行動力的発想を学ぶ。ニ.スピーチ力を作る。したがって、スピーチ研修にかける時間は25%から、せいぜい30%しかない。しかし、そのスピーチを実際に聞かれる方は驚かれるに違いない。スピーチの苦手な日本人とは思えない説得力をきかれるだろう。それは僅かの時間で、非常に効果的訓練が行われている証拠である。それを可能にしているのは教育システムの進歩による。
【 営業部門の改革 】
・話を前に進めよう。平成9年4月、橋本内閣は消費税率を3%から5%に引きあげた。将来の財政の悪化を、大蔵官僚が暗く述べたこともあった。これらの措置が、バブル経済の打撃から立ち直りつつあった日本経済に打撃となり、経済は再びマイナス成長に陥った。当社の売上は平成3年の21億を底に反転し、平成8年には27億にまで回復していた。最盛期の30%ダウンだが、危機は脱したのだ。
・平成9年5月、経済が悪化し、当社の業績に影響しはじめていた。ビデオ教材も年商4億となり、その役割を果たした。ここで私がすべきことは何か。それは当社営業部門の改革に、本格的に取り組むことだった。創業以来30余年、営業部門は部下に任せ、私は一度も手をつけていなかった。営業10部門174人の中で何が行われているか、ルーズで非効率な仕事が横行する魑魅魍魎の世界であるに違いない。その一つ一つを正しい姿に変えていくのは気が重く、泥沼に足を踏み入れる心地がした…。
・改善の取り組みは、目標の設定とその達成から始めた。目標は平成8年のビデオ教材のテーマそのものであった。以後7年間、目標は私のモビィディック・白鯨、(老人と海、アーネスト・ヘミングウェイ作)となった。以降、私は目標と7年間にわたる格闘を続けることになる…。
第139回 『 バブル崩壊と12年不況 』 11
- 2004/05/11(火) 16:00:00
・台本に監督から疑問が出たことがある。「リーダーの部下育成」で社員に文章の素読、速読、早書きの練習シーンがあった。それらがオンザジョブ教育として行われる…。監督の疑問とはこれら一連の教育が、なぜ人材育成という大それたテーマにつながるのか…。質問は急所を衝き私は途惑った。それは第一に台本の弱点を衝き、第二に私の教育理論の脆弱性を問うていた。今ならきれいに説明できるが、その時は明快に答えられなかった。
【 何日かして、突如正解がひらめいた 】
・何日かして、私に突如正解がひらめいた。映像のエンディングで、人々は小さな勝利を互いに祝福する。これを観る人々の多くが感動の涙を流され、私は泣きっ放しとなった。私はビデオに次の文章をテロップで示しエンディングとした。
「『人材』とは優秀な人々の未来に有るのではなく、小さくても自分を変える事の出来る人の、日々の 『延長線』 上にある。」
・この文章により監督や関係者の納得は得られた。台本の弱点は残したが、これによって映像は救われたと思う。この文章は更に、人材育成のメカニズムを踏み込んで説明している。
・監督の疑問はなかなか鋭いものだった。あの疑問は誰が出したのだろう。たしかにそれは監督から出されたが、俳優のクレームが監督によって伝えられることはよくあることだった。あれはもしかしたら、江守徹のクレームだったかも…。
【 管理職にある人に何を教えているか 】
・あの文章、私の教育理論のエッセンスがここにある。管理者養成学校において、私たちは管理職にある人、これからなろうとする人達に何を教えているか。ここには人材とは何か、人材として大切な能力とは何かという問いと答えをもたねばならない。私はそれは5つあると考えた。読む能力(学習)、書く能力(考える)、数える能力(数値)、聞く能力(問題意識)、話す能力(コミュニケーション)である。これに管理職としての専門知識、技術研修が加わる。
・5つの基礎能力はいつの時代でも人を際立たせる能力である。これを強化する訓練…、こんな教育には、教える側は膨大な手間ヒマをかけねばならない。実技の指導は一人一人ができるようにせねばならない。
・例えば話す能力である。私たちは生徒にテーマを与え、7分間のスピーチにまとめてもらう。まずどなたも話の内容が薄く、7分間続かない。そこで話の組立て方を指導する。次にスピーチの荒筋を作りあげる。これを暗記し、暗記できればいよいよスピーチである。
・ところが、ここで新たな問題が発生する。皆さん、声が小さく、弱いのだ。そして話しが下手である。やむなく発声、素読、速読訓練が必要になる。声を鍛えればスピーチは形がついてくる。ころ合いを見て審査を受け、50点で合格である。こうして気の遠くなる膨大な訓練…。スピーチ研修は更に二つのテーマをヤラネバナラヌ。
・学校の訓錬は13日間で終了する。それは、人々の自分造りの人生の入口である。今後の方向を示すオリエンテーションである。映像の素読訓練は、当社の社員は毎日やっている。講演を行う当校の校長は、早口言葉をやっている。…私も。
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